Interview

キッチン・インテリア・空間デザイナー

和田 浩一

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「ノイズは排除して、空間に馴染ませる」
キッチン・インテリア
デザイナーのキッチン

2023.07.19up

    キッチンから生き方を見つめる
    インタビュー。
    キッチンやインテリア、空間全体まで、
    暮らしの場のデザインに幅広く携わる
    和田さんのスタジオを訪問し、
    生活やキッチンのこだわりを聞きました。

    転機は、自分がデザインしたドアとの再会

    福岡の大学でプロダクトデザインを学び、新卒でトーヨーサッシ(現LIXIL)株式会社に入社しました。窓やドアが主要事業の会社でしたが、「今後はインテリアやキッチンにも注力していこう」ということで、新たに立ち上げられた事業部に配属されまして。倉俣史朗さんをはじめとする世界的なデザイナーの方々とご一緒する機会もあり、とても刺激的な社会人生活を送っていました。ですがある日、偶然通りかかった物件に、自分がデザイン担当したドアが取り付けられているのを発見したんです。「これは都会的な四角い建物に合いそうだな」と思いながらデザインしたドアは、残念ながら片田舎の豪農な住宅の玄関になっていました。ドアやインテリアって、空間や建物を構成するためのパーツでしかないんですよね。僕らが丹精込めてデザインしたものが、どこでどんな風に使われるかまでは関与できない。その歯痒さを覚えたことがきっかけで、もっと空間全体のデザインに携わりたいと思うようになり、退職・独立を決めました。

    最近ではインテリアや空間全体の設計をする仕事のほうが多いのですが、独立したての頃は、「日本で1番オーダーキッチンが得意なデザイナーです」と啖呵を切って営業をしていたんです。自分で自分にプレッシャーをかけて。そうしたら、あるハウスメーカーから仕事をいただき、気が付けば年間50〜60件のオーダーキッチンをデザインするようになっていました。独立直後の10年間はまさに修行のようで、あの期間のおかげで非常に鍛えられました。その会社はメーカーでありながら型にはまらない柔軟さがあり、お客様によって空間の設計プランも使用する素材も本当にさまざま。なのでどんな設計が上がってきても、いかにキッチンを馴染ませることができるか、を僕は常に考えていました。「キッチンの存在感をなるべく消したい」という考えに辿り着いたのも、そういった過去の経験が大きく影響していると思います。

    目に見えないものを気にしすぎない

    今日お越しいただいたスタジオは約4年前に建てたのですが、日当たりが良くないことを逆手にとり、あらゆる「黒」を集めた部屋にしたいと思って設計しました。キッチンの収納棚にはポーランドの湖底に8000年沈んでいたボグオーク、腰壁には燻蒸させたユーカリを採用し、カーテン、エアコン、壁材も黒。フラワースタンド、ライト、ソファーなどのインテリアは倉俣史朗さんの作品です。普段の過ごし方としては、お客様との打合せの予定にもよりますが、午前中のうちにスタジオへ来て、昼食はここで自炊するか近所の店へ食べに行き、午後にもうひと仕事して、夕飯の仕込みを始めて、といった感じでしょうか。仕事中の飲み物はコーヒー1択です。かなりのハイペースで1日に何杯も飲んでしまうので、スピードを重視してスタジオではエスプレッソマシンを使用しています。

    夫婦ともに料理をつくるのが好きで、日々の食事をつくるだけでなく、よく友人知人を招いて食事会をしたり、妻は不定期でスナックを開いたりもしていて。先日はワインの試飲会があったのですが、そういう時は僕はシェフに徹してひたすらお料理をお出ししています。でも、食材や水に関してのこだわりはそんなに無いんです。おいしさや安全性って目に見えるものではないので、何をどこまで信じるかだと思っていて。水道水よりは浄水のほうがおいしいとは思いますし、口にするものはなるべく安全であるに越したことはありませんが、僕自身はそこまで気にしすぎないようにしています。

    シンクは、キッチンの中で最もノイズなもの

    うちの自宅とスタジオは、「キッチンらしさや存在感を消す」というデザインの実験を兼ねて、フルフラットのキッチンにしました。住宅という空間は、当然そこに住む人が主役。だから家族のコミュニケーションを妨げるものや、空間の中でノイズとなりえるものは、極力排除したいと思っています。少し前までは、オープンキッチンだとしても、調理する人の手元は隠せるように目隠しの板を立てるのが主流でした。今ではそういったものも無くして、キッチンのあちら側とこちら側でよりコミュニケーションがとれるような、開放的なデザインが好まれる傾向にありますよね。

    でもご覧の通り、ここまでキッチンをすっきりさせても、どうしても凸凹が出てしまう部分はあって。表現を選ばずに言うと、キッチンの中で最もノイズなものが「シンク」なんです。対面式の場合、キッチンの内側と外側の人の間に必ず水栓が立ちはだかってしまいます。だから水栓はなるべくシンプルに、そして浄水機能が必要だとしても余計な設置物が増えることは避けたいんです。そう考えていたので、シンク下に設置可能で、あらゆる水栓型に対応できる、トレビーノ®ブランチとの出会いは衝撃的でした。以来、浄水器をご所望のほとんどのお客様にはご提案しています。

    「シンク下に隠せる浄水器があるんです」と、トレビーノ®ブランチのおかげですっきりしたデザインをお見せする際に、お客様から疑問や不満のお声を聞くことはまずありません。これは大学の講義などでもよく話すことなのですが、人間って、綺麗なものには気付かないんです。汚いものにはすぐ気付くんですけどね。だから「余計なものが無いこと」が当たり前な世界を、なるべく見せてあげたいと心掛けています。

    人それぞれの希望が叶えられる

    トレビーノ®ブランチをおすすめする際、僕はポイントを3つお伝えしています。まず、水道水と浄水の切り替えが簡単にできること。浄水を使わなくてもいいシーンもあるので、無駄遣いせずに使えるというのは大きなメリットです。次に、カートリッジの交換時期を音で知らせてくれること。設置から約1年後という時期の目安はあってもどうしても忘れてしまいますし、厳密には使用頻度にもよると思うので、自分も実際に使用していて便利な機能だなと感じています。そして、配置の自由度の高さ。縦置き・横置き、奥・手前など、どんなキッチンにも自由な配置で取り付けられるので、お客様それぞれの希望を叶えられるのはとてもありがたいです。強いて言えば、例えば暗い色のキッチンにも馴染むような、白以外のカラーバリエーションもご検討していただけたら嬉しく思います。

    建築家 山家 明

    Profile

    キッチン・インテリア・空間デザイナー

    和田 浩一

    Coichi Wada

    1965年福岡県生まれ。88年に九州芸術工科大学芸術工学部工業設計学科を卒業。トーヨーサッシ(現LIXIL)株式会社を経て、94年にSTUDIO KAZ設立。バンタンデザイン研究所インテリア学部、工学院大学専門学校インテリアデザイン科などで講師を担当。「キッチンアカデミー」を立ち上げ・主宰し、オーダーキッチンの普及に務めている。

    https://studiokaz.com